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差し戻しはなぜ減らないのか|手戻りを設計で潰す

申請の差し戻しが減らないのは申請者の不注意ではなく、承認者が指摘しにくい・同じ項目を複数部署が重複チェックしている・何を直すか書かれていないという3つの構造によるものです。差し戻しを4種類に分け、どこで止めるべきかを整理し、チェックの分担と入力時点の制御で手戻りを減らす設計をまとめます。

差し戻しはなぜ減らないのか|手戻りを設計で潰す

承認フローを電子化しても、差し戻しの件数だけは減らない——という話をよく聞きます。当サイトでも、65本の記事のうち33本が何らかの形で差し戻しに触れています。それだけ広く起きている一方で、差し戻しそのものを減らす方法はあまり語られません。

差し戻しの対策は、たいてい「申請者への周知徹底」と「マニュアルの整備」に向かいます。しかし同じ人が同じ間違いを繰り返しているなら、原因は周知不足ではありません。本記事では、差し戻しが減らない構造を3つに分けて整理し、どこで止めるべきかを設計の話として扱います。

この記事の要点

  • 差し戻しが減らない原因は申請者の不注意ではなく、指摘が届いていない同じ項目を何度も見ているかのどちらか。
  • 承認者は役職が上の相手ほど差し戻しにくい。代わりに経理が黙って直すため、間違いが本人に学習されない。
  • 差し戻しは4種類に分けられる。形式不備は入力時点で、規程逸脱は申請時点で止める。承認者に残すのは内容の妥当性だけ。
  • チェックの担当範囲を決めないと、上長・経理・財務が同じ項目を重複して見る状態になる。
  • 差し戻しが起きなくなって初めて、承認そのものを減らす議論ができる。

差し戻しが減らない3つの構造

差し戻しが減らない3つの構造(承認者が指摘しにくい、同じ項目を複数部署が重複チェックしている、何を直すかが伝わっていない)と、それぞれで起きる結果を示した図解

構造1:承認者が差し戻しを言い出しにくい

見落とされがちですが、差し戻しには心理的なコストがあります。相手が自分より役職が上の場合はなおさらです。結果として起きるのは、差し戻しをせずに承認してしまうか、あるいは経理が黙って修正するかのどちらかです。

後者が厄介です。数字としては処理されているので問題が表面化せず、本人には自分の申請が間違っていたことが伝わりません。だから次も同じ形で出てきます。経理から見れば「何度言っても直らない」状態ですが、実際には一度も言っていないことがあります。

これを解く鍵は、指摘を人の判断ではなく事実として提示することです。システムが形式要件を機械的に判定し、その結果として差し戻しが起きるなら、承認者は気を遣わずに済みます。受け取る側も、個人的な指摘ではなくルールの話として受け止められます。

構造2:同じ項目を複数の部署が重複して見ている

上長が承認し、次に経理が確認し、さらに財務が見る——という多段階のチェックは、一見すると手厚い体制です。しかし誰が何を見るかが決まっていないと、全員が全部を見ることになります。

このとき起きるのは二重の無駄です。同じ項目を3回見る工数が発生し、そのうえ「誰かが見ているだろう」という前提で全員の確認が甘くなることもあります。差し戻しの理由が段階ごとに違えば、申請者は同じ申請で何度も差し戻されます。

構造3:何を直せばいいかが書かれていない

「不備があります」「規程を確認してください」という差し戻しコメントでは、申請者は何を直せばよいか分かりません。結果として、直したつもりの再申請がまた差し戻されます。

1回の差し戻しで直しきれなければ、件数は2倍・3倍になります。差し戻しの件数を数えるときは、延べ件数だけでなく「1つの申請が何回差し戻されたか」を見てください。ここが2回を超えているなら、伝え方の問題です。

差し戻しを4種類に分ける

対策を考える前に、差し戻しの中身を分けます。同じ「差し戻し」でも、止めるべき場所が違うからです。

差し戻しの4分類(形式不備・規程逸脱・勘定科目や部門の誤り・内容の妥当性)について、どこで止めるべきか、誰が判断すべきかを対応づけた図解

種類どこで止めるか誰が判断するか
形式不備添付漏れ、必須項目の空欄、日付の矛盾入力時点システム(人は不要)
規程逸脱上限額超過、対象外の購入先、期限後の申請申請時点システム(判定ルール)
科目・部門の誤り勘定科目、部門コード、税区分の選び間違い申請時点(自動付与)経理が作った対応表
内容の妥当性この支出が本当に必要か、金額は妥当か承認時点承認者(人の判断)

上の3つは、承認者に届く前に解決できます。 承認者に残すべきなのは最後の1つだけです。にもかかわらず多くの現場では、承認者が添付漏れを指摘し、経理が科目を直し、その両方が差し戻しとして計上されています。

形式不備は入力時点で弾く

必須項目の未入力、添付ファイルの不足、日付の前後矛盾といった機械的に判定できるものは、申請ボタンを押せない状態にするのが正解です。申請させてから差し戻すのは、申請者と承認者の両方の時間を使います。

ここで注意したいのは、制御を厳しくしすぎないことです。入力チェックをすべて「申請不可」にすると、例外的なケースで業務が止まります。申請を止めるものと、警告だけ出すものを分けてください。 運用上どうしても例外が出る項目は、理由を書けば進めるようにしておくほうが実務は回ります。

規程逸脱は申請時点で判定する

上限額の超過や対象外の購入先といった規程の話は、承認者が規程を覚えていないと止められません。そしてたいていの承認者は規程を覚えていません

規程の条件を申請フォーム側に持たせ、逸脱している場合はその場で表示する。基準内なら通常のルートへ、逸脱しているなら理由を付けて例外承認へ回す。この設計については出張規程の作り方|必須10項目と逸脱を防ぐ運用で、出張領域を例に詳しく扱っています。金額基準の決め方は備品購入の稟議はいくらから?金額基準と書き方をご覧ください。

科目・部門は申請者に選ばせない

勘定科目や税区分の選び間違いは、差し戻しの常連です。しかし申請者は経理の人間ではないので、「消耗品費」と「事務用品費」の区別はつきません。申請者には業務の言葉で選ばせ、科目は裏の対応表で自動的に決めるのが基本です。この考え方は承認データを仕訳にする|会計システム連携の設計で整理しています。

チェックの担当範囲を決める

構造2を解くには、誰が何を見るかを明示するしかありません。ここで有効なのが、チェックの順序を変えるという打ち手です。

一般的な流れは「申請 → 上長承認 → 経理チェック」です。これを逆にして、先に経理が科目・税区分の形式面を見てから、上長が最終承認する構成に変えると、上長の負担が大きく下がります。上長は取引先と金額の妥当性だけを見ればよくなり、スマートフォンからでも承認できるようになるためです。

この順序変更には副次的な効果もあります。上長の未決ボックスで伝票が滞留しなくなるため、フロー全体の流れが速くなります。承認が遅れる原因の整理はkintoneワークフロー承認遅延を解消する原因と対策、承認者が不在で止まる場合の設計は代理承認の設計|承認者不在で止めない、証跡を壊さないで扱っています。

担当範囲を決めるときは、次の3点を紙に書き出してください。

  1. 各段階で見る項目を列挙する — 重複している項目があれば、どちらか一方に寄せる
  2. 見ない項目も明示する — 「上長は科目を見ない」と決めておかないと、結局見てしまう
  3. 見る人がいない項目を探す — 全員が見ていない項目があれば、そこが統制の穴

差し戻しの件数をどう測るか

改善したかどうかを判断するには、測り方を決めておく必要があります。最低限、次の3つを分けて数えてください。

指標何が分かるか
差し戻し率(差し戻された申請 ÷ 全申請)全体の申請品質
1申請あたりの差し戻し回数伝え方の問題があるか
差し戻し理由の内訳(4分類別)どこに設計を入れるべきか

理由の内訳を取っていない組織が多いのですが、ここが対策の出発点になります。形式不備が大半なら入力制御で解決しますし、内容の妥当性が大半なら、それは健全な差し戻しかもしれません。

差し戻し理由を自由記述にしていると集計できないため、選択式にして自由記述を併用する形をおすすめします。

差し戻しが減った先にあるもの

差し戻しが構造的に起きなくなると、次の問いが出てきます。そもそもその承認は必要なのか、という問いです。

承認ステップを減らす取り組みは、一般に「不正が起きるのでは」という懸念で止まります。しかし実際に踏み切った組織は、承認をなくす代わりに事後チェックを必ず置いています。月次でデータを抽出して異常値を確認する、データ連携された明細は承認不要にして手入力のものだけ確認する、といった形です。

重要なのは、事後チェックが形だけにならないことです。問題を見つけたときに実際に修正や返金を求める運用があってはじめて、「見られている」という前提が成立します。逆に言えば、事後チェックの運用が回らない組織で承認だけ減らすのは危険です。

まずは差し戻しを減らし、申請データの品質が安定してから、承認ステップの削減に進んでください。順序を逆にすると、精度の低い申請がそのまま通る状態になります。

1Approvalでの実現方法

1Approvalでは、購買や出張の申請が承認された時点でそのまま発注・手配が実行され、その内容が経費データとして生成されます。申請の内容と実行結果が同じデータなので、実行後に金額がずれて差し戻すという事象が起きません

事前承認の時点と実際の購買実行時点で価格が変わる場合も、あらかじめ価格上昇の許容範囲を設定しておく「ダイナミック・ポリシー」により、価格が上がるたびに差し戻しが発生する事態を避けられます。数百円の差額で申請をやり直す、という手戻りが構造的になくなります。

また、法人決済を前提とした仕組みのため、領収書の添付漏れを理由とした差し戻しも発生しません。機能の詳細は1Approval for Microsoft 365のページ、購買申請側の設計はMicrosoft 365で購買申請を自動化する設計の勘所をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

差し戻しを減らすには、まず何から手をつけるべきですか?

差し戻し理由の内訳を取ることからです。形式不備・規程逸脱・科目の誤り・内容の妥当性の4つに分類し、どれが多いかを見てください。形式不備が大半であれば入力時点の制御で解決しますが、内容の妥当性が大半なら、それは本来の承認が機能している状態かもしれません。

入力チェックを厳しくすると、申請が進まなくなりませんか?

すべてを「申請不可」にすると例外的なケースで業務が止まります。申請を止めるものと警告だけ出すものを分け、運用上どうしても例外が出る項目は理由を書けば進められるようにしてください。厳密性が求められない項目まで一律に止めると、問い合わせが増えて現場が回らなくなります。

同じ人が何度も同じ間違いをします。周知が足りないのでしょうか?

周知よりも、指摘が本人に届いているかを確認してください。承認者が気を遣って差し戻さず、経理が黙って修正しているケースでは、本人は自分の申請が間違っていたことを知りません。システムが形式要件を機械的に判定する形にすると、指摘が個人的な話ではなくなり、伝わるようになります。

承認の段階を増やせば、差し戻しは減りますか?

減りません。段階を増やしても、各段階で見る項目が決まっていなければ全員が全部を見ることになり、同じ項目を重複してチェックする状態になります。段階の数ではなく、各段階が何を見るかを決めてください。見ない項目を明示するのも同じくらい重要です。

経理が先に見てから上長が承認する順序に変えても問題ありませんか?

職務分掌の観点では、経理の確認は形式面(科目・税区分・添付)に限り、支出そのものの妥当性判断は上長が行う、という切り分けを明示しておけば問題ありません。むしろ上長が形式面の確認から解放されるため、本来見るべき妥当性の判断に集中できます。監査対応としては、どちらが何を確認したかの記録が残る構成にしてください。

まとめ|差し戻しは申請者ではなく設計の問題

差し戻しが減らない原因は、申請者の注意力ではありません。指摘が本人に届いていないか、同じ項目を何人もが見ているか、何を直せばよいか伝わっていないかのいずれかです。

対策の順序は決まっています。まず差し戻しを4種類に分け、形式不備は入力時点で、規程逸脱は申請時点で、科目は対応表で止める。承認者に残すのは内容の妥当性だけにする。そのうえで各段階の担当範囲を決め、重複をなくす。

まずは直近1か月の差し戻しを20件ほど抜き出し、それぞれがどの種類だったかを分類してみてください。承認者の判断が必要だったものが何件あるかを数えると、いま承認者が何をしているのかが見えます。

監修

伏見 匡矩

伏見 匡矩

株式会社エイチ 代表取締役社長

株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。承認されたあとの購買・手配をどう自動化するかという観点から、Microsoft 365を基盤とした申請・承認の設計を扱っている。

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