属人化とは|解消すべきものと放置してよいもの
属人化は「特定の人しかできない状態」ですが、すべてを解消する必要はありません。内部統制の実施基準が「業務を特定の者に一身専属的に属させる」ことの何を問題としているかを一次資料で確認し、止まるか・確かめられるかの2軸で切り分けて、手を打つ順番を決める方法を整理します。属人化と専門性の違い、承認フローで起きる典型例も扱います。
「あの業務、◯◯さんしか分からないんですよ」
この一文は、提案資料でも社内の課題一覧でも、ほぼ必ず悪いこととして出てきます。属人化という言葉には、聞いた瞬間に対策が必要だと思わせる響きがあります。
ただ、実際に標準化に着手すると、たいていうまくいきません。手順書を書く時間が取れない。書いても更新されない。そもそも全部を標準化したら、誰も本来の仕事ができなくなる。
結論から書きます。属人化そのものは、問題ではありません。問題になるのは、次の2つのどちらかが欠けているときだけです。
- その人がいなくても業務が止まらないこと
- その人がやったことを後から確かめられること
この2つが揃っているなら、一人が担当していても放置してかまいません。それは属人化ではなく、ただの分担です。
本記事では、内部統制の実施基準が属人化の何を問題としているかを一次資料で確認し、手を打つ順番の決め方を整理します。
この記事の要点
- 実施基準に「属人化」という語は出てこない。使われているのは業務を特定の者に一身専属的に属させるという表現
- 基準が挙げる問題は2つ。組織としての継続的な対応が困難になることと、内部統制が可視化されないこと
- この2つがそのまま判断軸になる。止まるか/確かめられるかで4つに切り分けられる
- 止まらず、確かめられるなら放置してよい。すべてを標準化する必要はない
- 属人化と専門性は違う。代わりが育つのに年単位かかる仕事は、標準化ではなく人の問題
- 承認フローの属人化は最優先の象限に入りやすい。設定を1人しか触れず、変更の記録も残らないため
属人化とは何か
属人化は、特定の業務が特定の個人に依存し、その人以外が遂行できない状態を指します。一般的な言葉で、法令にも会計基準にも定義はありません。
内部統制の実施基準にも、「属人化」という語は出てきません。ただし、同じ状態を別の言い方で名指ししている箇所があります。統制活動の説明です。
適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより、組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる。また、権限及び職責の分担や職務分掌を明確に定めることは、内部統制を可視化させ、不正又は誤謬等の発生をより困難にさせる効果を持ち得るものと考えられる。
一身専属的という表現が、属人化の状態そのものです。
ここで重要なのは、基準が挙げている問題が2つに分かれていることです。
- 組織としての継続的な対応が困難となること(継続性)
- 内部統制が可視化されず、不正や誤謬が発生しやすくなること(可視性)
多くの解説は前者だけを扱います。担当者が辞めたら困る、という話です。しかし基準は、後者を並べて書いています。誰も見ていない状態そのものが問題だ、という指摘です。
属人化と専門性は違う
切り分けの前に、一つ除外しておくべきものがあります。専門性です。
税務申告を税理士が担当している。製造装置の調整をベテラン技能者が担当している。これらは「その人しかできない」状態ですが、属人化と呼んで標準化の対象にするのは筋が違います。代わりが育つのに年単位かかる仕事は、手順書で解決する問題ではありません。
見分け方は単純です。手順を書けば他の人ができるようになるか。なるなら属人化、ならないなら専門性です。
専門性のほうは、人を増やす、外部に出す、業務そのものをやめる、のいずれかしか打ち手がありません。標準化の計画に混ぜると、計画全体が動かなくなります。
2つの軸で切り分ける
基準が挙げた2つの問題を、そのまま判断軸にします。
- 横軸:その人が明日いなくなったら、業務が止まるか
- 縦軸:その人がやったことを、後から確かめられるか
4つに分かれます。
| 止まらない | 止まる | |
|---|---|---|
| 確かめられる | 放置してよい | 手順を残す |
| 確かめられない | 記録を残す | 最優先 |
放置してよい(止まらない × 確かめられる)
一人が担当しているだけで、休んでも業務は回り、やったことは記録から追える。この状態は属人化ではなく、ただの分担です。
ここに手を入れるのは、ほぼ常に投資の無駄です。標準化の提案が社内で反発を受けるときは、たいていこの象限まで対象に入っています。
手順を残す(止まる × 確かめられる)
月次の締め作業の進め方が本人の頭の中にしかない。記録は残っているので事後に検証はできるが、本人が倒れると翌月が止まる。
業務継続の問題です。打ち手は手順を残すことですが、正式な手順書である必要はありません。画面を録画して共有フォルダに置くだけでも、止まる期間は大きく縮みます。完璧な文書を目指して着手しないより、粗くても残っているほうが効きます。
記録を残す(止まらない × 確かめられない)
担当が複数いて業務は止まらないが、誰が何を承認し、何を根拠に実行したかが後から追えない。口頭やチャットで依頼が流れている状態です。
統制の問題です。基準が言う「可視化」が欠けています。打ち手は手順の文書化ではなく、記録が残る経路に業務を通すことです。何を証拠として残すべきかは証憑とは|証憑書類の種類と保存期間で整理しています。
最優先(止まる × 確かめられない)
継続性も可視性も欠けています。その人が辞めたら業務が止まり、しかも過去に何をしていたかも分からない。
ここだけは、他を後回しにしてでも手を打つ価値があります。順番は、まず記録を残す仕組みに通すこと、次に手順を残すことです。記録のほうが先なのは、記録が残り始めれば、手順はその記録から復元できるためです。逆は成り立ちません。
承認フローは、最優先の象限に入りやすい
自社の業務を4象限に置くと、承認まわりが右下に集まりやすいことに気づきます。理由は2つあります。
1つは、設定を触れる人が限られること。承認ルートの定義、承認者の登録、金額による分岐。これらを変更できるのは、たいてい情シスか、仕組みを作った1人です。その人が異動すると、組織改編のたびに承認ルートを直せなくなります。承認者マスタの設計|組織改編で壊れない承認ルートで扱っているのは、まさにこの問題です。
もう1つは、自作した仕組みほど記録が残らないこと。Google Apps Scriptやマクロで組んだ承認処理は、動いてはいるが、誰がいつ何を変更したかが残りません。書いた本人がいなくなると、挙動を読み解く作業から始まります。Google Workspaceで承認ワークフローを自動化する方法でも、属人化は自作の主要なリスクとして挙がります。
コードで書かれた承認フローは、「止まる」と「確かめられない」の両方に該当しやすい構造を持っています。ここが、自作と製品の分かれ目として実務上いちばん効く論点です。
「標準化」で失敗する理由
属人化の解消が計画倒れになるとき、原因はたいてい同じです。全部をやろうとしていることです。
手順書の整備を全社一斉に始めると、現場は本来の業務を止めて文書を書くことになります。書き上がる頃には内容が古くなり、誰も参照しない文書が残ります。
4象限で切り分けると、着手すべき対象は大きく減ります。右下から順に、右上と左下、左上は手をつけない。この順番を先に決めておくと、「あれも属人化です」という話が出てきたときに、どの象限かを聞くだけで優先度が決まります。
なお、人数が足りずにどうしても分けられない場合の考え方は、職務分掌とは|分けられないときの補完統制で扱っています。属人化が継続性と可視性の話であるのに対し、職務分掌は相互牽制の話で、重なってはいますが別の問題です。
よくある質問(FAQ)
属人化とブラックボックス化は違いますか?
重なりますが、同じではありません。属人化は「その人しかできない」状態、ブラックボックス化は「中で何が起きているか分からない」状態です。4象限でいうと、属人化は横軸、ブラックボックス化は縦軸に対応します。両方が起きているのが右下の象限です。
属人化はすべて解消すべきですか?
いいえ。業務が止まらず、やったことを後から確かめられるなら、一人が担当していてもかまいません。すべてを解消しようとすると、どれも終わらない計画になります。
属人化の原因は何ですか?
担当者個人の抱え込みが原因とされがちですが、構造的な原因のほうが多く見られます。記録が残らない経路(口頭・チャット・個人フォルダ)で業務が流れていること、担当の交代が長期間起きていないこと、自作のツールに業務が載っていることなどです。原因を人に求めると打ち手が精神論になります。
手順書を作れば属人化は解消しますか?
「止まる」側は改善しますが、「確かめられない」側は改善しません。手順書は未来の再現性を高める文書で、過去に何が行われたかの記録ではないためです。右下の象限では、手順書より先に記録が残る仕組みが要ります。
ベテランしかできない仕事も属人化ですか?
手順を書けば他の人ができるようになるなら属人化、年単位の習熟が必要なら専門性です。後者は標準化ではなく、人を増やすか外部に出すか、業務をやめるかの判断になります。
属人化はどの部署から手をつけるべきですか?
部署ではなく象限で選んでください。業務を洗い出して4象限に置き、右下にあるものから着手します。部署単位で始めると、同じ部署の中に放置してよい業務まで混ざります。
ワークフローシステムを入れれば属人化は解消しますか?
申請と承認に関する部分は改善します。承認ルートが設定画面で管理され、誰がいつ承認したかが記録として残るためです。ただし、承認の先で行われる実作業の属人化は残ります。発注作業や月次の締めそのものは、別に手を打つ必要があります。
内部統制の観点では属人化はどう扱われますか?
実施基準は「属人化」という語を使いませんが、業務を特定の者に一身専属的に属させることの問題として、組織としての継続的な対応が困難になることと、内部統制が可視化されないことを挙げています。後者はモニタリングの前提でもあり、記録が残らない業務は評価の対象にできません。
1Approvalでの実現方法
1Approvalが扱えるのは、4象限のうち縦軸、つまり「確かめられるか」の側です。
申請から承認までを1つの経路に通すと、誰がいつ何を承認したかが申請ごとの記録として残ります。口頭やチャットで流れていた依頼が申請として残るため、担当者が交代しても、過去に何がどの根拠で通ったかを追えます。
承認ルートの設定を設定画面で管理できる点も、右下の象限に効きます。ルートの変更がコードの修正ではなくなるため、変更できる人が1人に限られる状態から抜けられます。
一方で、横軸、つまり「止まるかどうか」は1Approvalでは解決しません。承認の先にある実作業——発注、検収、月次の締め——が特定の人に依存している状態は、手順を残すか、担当を増やすかでしか動きません。ここを混同したまま導入すると、「システムを入れたのに属人化が解消しない」という評価になります。埋められるのは縦軸だけです。
まとめ
属人化そのものは問題ではありません。内部統制の実施基準が問題としているのは、業務を特定の者に一身専属的に属させることで、組織としての継続的な対応が困難になること、そして内部統制が可視化されないことの2つです。
この2つがそのまま判断軸になります。その人が明日いなくなったら止まるか。そして、やったことを後から確かめられるか。
止まらず確かめられるなら、放置してよい分担です。止まるなら手順を残す。確かめられないなら記録を残す。両方欠けているものだけが、最優先で手を打つ対象です。
承認まわりは、設定を1人しか触れず変更の記録も残らないため、最優先の象限に入りやすい領域です。特にコードで自作した承認処理は、2つの軸の両方に該当します。
最後に着手の順番です。手順書の整備から始めないでください。まず自社の業務を4象限に置き、右下にあるものだけを数えてください。そこが、投じた時間が最も戻ってくる場所です。
主な参照先
※本記事は2026年10月時点で確認した公開情報をもとに整理したものです。基準・実施基準の引用は上記の意見書本文によります。本記事は一般的な情報提供であり、個別の案件に対する助言ではありません。自社の内部統制の評価については、監査人および専門家にご確認ください。
監修
伏見 匡矩
株式会社エイチ 代表取締役社長
株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。承認されたあとの購買・手配をどう自動化するかという観点から、Microsoft 365を基盤とした申請・承認の設計を扱っている。
経歴・運営者情報を見るこの記事のテーマ
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