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職務分掌とは|分けられないときの補完統制

職務分掌は「誰が何を担当するか」を定めることですが、実務の焦点は分けることそのものより、分けられない会社がどう補うかにあります。内部統制の基準が統制活動に挙げる「明確な職務の分掌、内部牽制」を一次資料から確認し、必ず分けるべき3つの組み合わせ、少人数で分けられないときの補完統制、そしてワークフローで担保できる部分とできない部分を整理します。

職務分掌とは|分けられないときの補完統制

職務分掌の解説を読むと、たいてい「業務を複数人で分担し、相互に牽制させること」と書かれています。間違いではありませんが、実務でつまずくのはその先です。

分けるべきだと分かっていても、人がいない。

発注も検収も支払も、同じ担当者が回している。管理部門が3人しかいない。こうした会社に「分掌しましょう」と言っても前に進みません。

結論から書きます。分けられないこと自体は、ただちに問題ではありません。問題は、分けられない状態をどう補っているかを説明できないことです。 内部統制の基準にも、分けられない場合に効く補完統制という考え方があります。

本記事では一次資料から職務分掌の位置づけを確認し、必ず分けるべき3つの組み合わせと、分けられないときの補い方を整理します。

この記事の要点

  • 職務分掌は「誰が何を担当するか」を定めるものです。「誰がいくらまで決められるか」を定める職務権限規程とは別の文書で、混同すると二重管理になります。
  • 内部統制の基準は、統制活動の説明の中で「明確な職務の分掌、内部牽制、並びに継続記録の維持及び適時の実地検査等の物理的な資産管理の活動等を整備し」と述べています。職務分掌は統制活動の構成要素です。
  • 実施基準は、不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために、各担当者の権限及び職責を明確にすることが重要だとしています。
  • 必ず分けたい組み合わせは3つ。発注と検収/記録と現物管理/申請と承認です。同じ人が担うと、それぞれ架空発注、横領の隠蔽、自己承認が成立します。
  • 少人数で分けられない場合は補完統制で補います。基準にも、不備を検討する際に「補完統制」の有無と、それがリスクをどの程度低減しているかを検討する、という考え方が示されています。
  • 補完統制の例は、上長による事後のモニタリング、第三者による突合、一定額以上の二重チェック、取引明細の定期レビューです。
  • 基準は、事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織について、記録の形式・方法は一律に規定されるものではなく、既存の記録を利用して補足すれば足りるとしています。
  • ワークフローシステムで担保できるのは申請と承認の分離までです。発注と検収、記録と現物管理は、承認フローの外にあります。

職務分掌とは何か

職務分掌とは、組織の中で誰がどの職務を担当し、どこまでの責任を負うかを明確にして配分することです。

よく混同される職務権限規程との違いを整理します。

定めるもの問い
職務分掌規程各部署・各職位が担当する職務の内容と責任の範囲誰が何を担当するか
職務権限規程決裁できる事項と金額の範囲誰がいくらまで決められるか

この2つは別物です。 分掌が「担当」を、権限が「決裁」を扱います。片方だけでは運用が成立せず、両方を同じ文書に詰め込むと更新のたびに矛盾します。

職務権限規程の作り方、会社法362条4項が定める取締役会の専決事項という天井、金額基準に根拠を持たせる方法は職務権限規程の作り方|決裁金額の決め方に整理しています。本記事は分掌の側を扱います。

なお「業務分掌」という言い方もあります。部門単位の担当範囲を業務分掌、個人や職位単位まで落としたものを職務分掌と使い分けることが多いものの、実務では厳密に区別されず、どちらも規程名として使われています。自社でどちらの語を使うかより、部門レベルと個人レベルの両方が定義されているかのほうが重要です。

基準における位置づけ

職務分掌は、内部統制の基準では統制活動の中に位置づけられています。原文を引きます。

統制活動とは、経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続をいう。 統制活動には、権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる。

そして注として、こう続きます。

例えば、明確な職務の分掌、内部牽制、並びに継続記録の維持及び適時の実地検査等の物理的な資産管理の活動等を整備し、これを組織内の各レベルで適切に分析及び監視していくことが重要になる。

さらに実施基準では、

経営者においては、不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために、各担当者の権限及び職責を明確にし、各担当者が権限及び職責の範囲において適切に業務を遂行していく体制を整備していくことが重要となる。

「不正又は誤謬」の両方が挙がっている点が重要です。 職務分掌は、悪意ある不正だけでなく、単純なミスが誰にも気づかれないまま通ってしまう状態も防ぎます。「うちは不正をする人間がいないから」という理由で分掌を省くのは、後者を見落とした判断です。

内部統制報告制度の全体像はJ-SOXとは|3点セットと統制活動に整理しています。

必ず分けたい3つの組み合わせ

分掌を細かくしすぎると業務が回りません。どこから手をつけるかが実務の問いです。優先度が高いのは次の3組です。

職務分掌で分けるべき3つの組み合わせと、分けられないときの補完統制を示した図。発注と検収、記録と現物管理、申請と承認の3組を分け、分けられない場合は上長のモニタリングや第三者による突合などの補完統制で補う

1. 発注する人 ≠ 検収する人

同じ人が両方を担うと、実際には納品されていないものを「検収済み」にできます。 架空発注と、数量の水増しが通ります。

検収とは|検収書と支払期日の数え方で書いたとおり、検収は「発注内容と合っているか」の照合です。照合する人が発注者本人なら、照合になりません。

2. 記録する人 ≠ 現物を管理する人

在庫や備品を持ち出した人が帳簿も直せるなら、横領を記録上で隠せます。 基準が「継続記録の維持及び適時の実地検査等の物理的な資産管理の活動」を挙げているのは、この組み合わせへの対応です。

備品台帳と購買の関係は入社・退職で発生する申請と回収の設計で扱っています。

3. 申請する人 ≠ 承認する人

自己承認です。もっとも基本的で、もっとも抜けやすい。

抜け方は2通りあります。ひとつは経路の設定上、申請者が承認者に含まれてしまうこと。もうひとつは代理承認の設定で、結果的に自分が自分を承認できることです。後者は設定した時点では気づきにくく、監査で指摘されて初めて分かります。代理承認で証跡を壊さない設計は代理承認の設計に整理しています。

分けられないときどうするか

ここが本記事の中心です。

人数が足りず3組を分けられない会社は珍しくありません。そのこと自体がただちに不備になるわけではありません。 基準は、内部統制の不備を検討する際に次の考え方を示しています。

補完統制の有無と、仮に補完統制がある場合には、それが勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と金額的影響をどの程度低減しているかを検討する。

つまり、分けられない部分を別の統制で補い、その効果を説明できれば成立し得るということです。

補完統制の例

補う方法どのリスクに効くか
上長による事後のモニタリング担当者が単独で完結した取引を、別の目で見る
第三者による突合発注データと請求書、帳簿と現物を、担当外の人が照合する
一定額以上の二重チェック金額の大きいものだけ人を増やす(全件は回らないため)
取引明細の定期レビュー同一取引先への集中、単価の変動、年度末の偏りを見る
現物の実地棚卸記録と現物のずれを定期的に検出する

全部やる必要はありません。 自社でどの組み合わせが分けられていないかを特定し、そこに効く補完統制を1つ選んで、実施した記録を残す。この3点がそろっていれば説明できます。

小規模組織への配慮

基準は、事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織について、記録の形式・方法を限定していません。

記録の形式、方法等については、一律に規定されるものではなく、企業の作成・使用している記録等を適宜、利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足りる

例として、経営者からの社内への通達、業務内容を前任者から後任者へ伝達する文書、販売担当者が受注の際に作成した文書、伝票や領収書などの原資料、システムから出力される業務指示書などが挙げられています。

専用の管理台帳を新たに作る必要はありません。 いま社内で使っている記録に、足りない部分を補足していく形で足ります。

職務分掌規程をどう書くか

文書にするときの最小構成です。

項目書くこと
部門ごとの所管業務その部署が何を担当するか
職位ごとの責任範囲部長・課長・担当が、それぞれどこまで負うか
兼務の扱い兼務が発生する場合の条件と、そのときの補完統制
相互牽制の明示分けている組み合わせを明記する
改定の手続誰の承認で改定できるか

兼務の扱いを書いておくのが実務的なコツです。 規程に「分けること」しか書いていないと、分けられない部署が規程違反の状態になります。「分けられない場合は◯◯で補う」と先に書いておけば、運用が規程の中に収まります。

ワークフローで担保できる範囲

ここは期待と実態がずれやすい部分です。

分けたい組み合わせワークフローで担保できるか
申請する人 ≠ 承認する人できる。 経路の設計と、申請者を承認者から外す設定
発注する人 ≠ 検収する人承認フローの外。 発注・検収は承認が降りた後の工程
記録する人 ≠ 現物管理する人承認フローの外。 台帳と現物の話

ワークフローシステムが担保できるのは3組のうち1つだけです。 残り2つは承認の先にあり、購買システムや台帳側の設計になります。

そのうえで、申請と承認の分離についても確認すべき点があります。

  • 申請者が承認者に含まれる経路を作れてしまわないか
  • 経路の設定を誰が変更できるか(現場が自由に変えられるなら分掌は崩れる)
  • 代理承認で自己承認が成立しないか
  • 変更の履歴が残るか

Garoonの設定画面が管理権限を持つユーザーのみであること、desknet’s NEO が「申請時に経路を変更させない設定」を持つことは、この観点では統制上の差になります。製品ごとの実装はワークフローシステム比較に整理しています。

よくある質問(FAQ)

職務分掌と職務権限規程はどう違いますか?

職務分掌規程は担当を、職務権限規程は決裁を定めます。前者は「誰が何を担当するか」、後者は「誰がいくらまで決められるか」です。分掌が担当、権限が決裁です。別の文書として持ち、同じ文書に詰め込まないでください。更新のたびに矛盾します。

職務分掌と業務分掌は違いますか?

部門単位の担当範囲を業務分掌、個人や職位単位まで落としたものを職務分掌と使い分けることが多いものの、実務では厳密に区別されず、どちらも規程名として使われています。呼び方より、部門レベルと個人レベルの両方が定義されているかのほうが重要です。

人数が少なくて職務を分けられません。違反になりますか?

分けられないこと自体がただちに不備になるわけではありません。 内部統制の基準は、不備を検討する際に補完統制の有無と、それがリスクをどの程度低減しているかを検討するとしています。分けられない部分を別の統制で補い、その効果を説明できる状態にしてください。

補完統制とは具体的に何をすればよいですか?

上長による事後のモニタリング、第三者による突合、一定額以上の二重チェック、取引明細の定期レビュー、現物の実地棚卸などです。全部やる必要はありません。 分けられていない組み合わせを特定し、そこに効くものを1つ選び、実施した記録を残す。この3点がそろえば説明できます。

まず何から分ければよいですか?

優先度が高いのは3組です。発注する人と検収する人(架空発注・水増し)、記録する人と現物を管理する人(横領の隠蔽)、申請する人と承認する人(自己承認)。このうち申請と承認はワークフローシステムで担保できるため、着手しやすい順でもあります。

小規模な会社でも専用の管理資料を作る必要がありますか?

基準は、小規模で比較的簡素な構造の組織について「記録の形式、方法等については、一律に規定されるものではなく、企業の作成・使用している記録等を適宜、利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足りる」としています。既存の伝票や業務指示書などを使い、足りない部分を補足する形で足ります。

ワークフローシステムを入れれば職務分掌は守られますか?

守られるのは3組のうち「申請と承認」の1つだけです。 発注と検収、記録と現物管理は承認フローの外にあります。加えて申請と承認についても、申請者が承認者に含まれる経路を作れないか、経路の設定を誰が変更できるか、代理承認で自己承認が成立しないかを確認してください。

職務分掌規程に兼務のことは書くべきですか?

書いてください。 規程に「分けること」しか書いていないと、分けられない部署が規程違反の状態になります。「分けられない場合は◯◯で補う」と先に書いておけば、実態が規程の中に収まり、監査でも説明できます。

1Approvalでの実現方法

1Approvalは、いま使っている承認ワークフロー(Microsoft 365、Teams、Google Workspace、kintone)の上で、承認が降りた時点で発注や手配まで完了させる仕組みです。

職務分掌の文脈では、担当するのは、「発注する人 ≠ 検収する人」の前提条件にあたる部分です。

発注が個人のアカウントや立替で分散していると、誰が何をいくらで発注したかが社内に残りません。 分掌の議論以前に、発注という行為が記録されていない状態です。

  • 申請の入口が1つになる — 何をどこで買うかに関わらず、発注が申請レコードとして残ります
  • 承認と発注の間が消える — 承認した内容がそのまま手配になり、突合の対象が明確になります
  • 費用が法人一括請求にまとまる — 従業員の立替と領収書の回収が発生しません
  • 既存の承認基盤をそのまま使う — 承認フローを置き換えません

分掌を設計するのは自社の仕事です。 1Approvalが担うのは、分掌を議論できるだけの記録が残る状態をつくる部分です。

まとめ

職務分掌は「誰が何を担当するか」を定めるもので、「誰がいくらまで決められるか」を定める職務権限規程とは別の文書です。

内部統制の基準は、統制活動の説明の中で「明確な職務の分掌、内部牽制」を挙げ、実施基準は不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために各担当者の権限及び職責を明確にすることが重要だとしています。誤謬が含まれている点が重要で、「不正をする人間がいないから不要」という判断は、ミスが誰にも気づかれない状態を見落としています。

優先して分けたいのは発注と検収/記録と現物管理/申請と承認の3組です。同じ人が担うと、架空発注、横領の隠蔽、自己承認が成立します。

そして分けられない会社がどうするか。基準は不備を検討する際に補完統制の有無とその効果を検討するとしており、分けられない部分を別の統制で補い、説明できれば成立し得ます。小規模組織については記録の形式も限定されていません。分けられないこと自体より、説明できないことのほうが問題です。

最後に、ワークフローシステムで担保できるのは3組のうち「申請と承認」だけです。残り2つは承認の先にあります。まず自社の3組がそれぞれ分けられているかを数えて、分けられていないものに補完統制を1つずつ当ててください。

主な参照先

※本記事は2026年10月時点で確認した公開情報をもとに整理したものです。基準・実施基準の引用は上記の意見書本文によります。本記事は一般的な情報提供であり、個別の案件に対する助言ではありません。自社の職務分掌や補完統制の妥当性については、監査人および専門家にご確認ください。

監修

伏見 匡矩

伏見 匡矩

株式会社エイチ 代表取締役社長

株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。承認されたあとの購買・手配をどう自動化するかという観点から、Microsoft 365を基盤とした申請・承認の設計を扱っている。

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