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出張・トラベル

カラ出張とは?処分・税務と防止策

カラ出張(架空出張)の定義、水増しとの違い、グレーゾーンの線引きを整理し、発覚したときに会社側と本人側それぞれに何が起きるかを税務・刑事・民事・懲戒の4面から分けて説明します。重加算税や役員給与認定という会社負担、立証責任の所在、そして成立条件を1つずつ潰す防止策の設計までを扱います。

カラ出張とは?処分・税務と防止策

カラ出張は、不正の中では古典的な手口です。それでも今も起きるのは、手口が巧妙だからではありません。出張という業務が、行った本人の申告以外に事実を確かめる手段をほとんど持っていないからです。

本記事では、まずどこからがカラ出張なのかを線引きし、発覚したときに会社側と本人側それぞれに何が起きるかを分けて整理します。そのうえで、防止策を「注意喚起」ではなく成立条件の除去として設計します。

この記事の要点

  • カラ出張は出張の事実そのものが無いもの。日程や経路を膨らませる水増しとは、問われる法律も税務上の扱いも変わります。
  • 発覚したときに痛むのは本人だけではありません。重加算税と源泉所得税は会社が払います。役員のカラ出張なら役員給与と認定され、その分は損金になりません。
  • 恒常的に繰り返されていた場合、一時の賞与ではなく役員報酬の一部と認定されることがあります。定期同額給与の前提が崩れるため、影響は当該支出の額に留まりません。
  • 本人には刑事(業務上横領・詐欺)、民事(返還請求)、懲戒(解雇・退職金不支給)の3面が問えます。ただしいずれも会社側の立証が前提です。
  • 防止策の本体は規程の周知ではありません。カラ出張が成立するには4つの条件が全部そろう必要があるので、そのうち1つを外せば成立しません。
  • 最も外しやすいのは「移動と宿泊の実在を、本人が持ってくる証憑でしか確認できない」という条件です。手配を会社側に寄せると、ここが自動的に埋まります。

カラ出張とは何か

カラ出張(空出張・架空出張)は、実際には行っていない出張を、行ったものとして申請し、旅費や日当を受け取る行為です。

要点は「金額」ではなく「事実」の側にあります。出張という事実が存在しないのに、それを前提とした支出が会社から出ている状態です。

水増しとの違い

実務でよく混同されますが、この2つは別物として扱われます。

カラ出張水増し
何が偽られるか出張したという事実出張にかかった金額・日数
典型例行っていない訪問を申請する2泊を3泊で申請する/実際より高い経路で申請する
発覚のしやすさ訪問先に照会されると崩れる差額が小さく、常習化しやすい
悪質性の評価高い(事実の創作)事案によるが、継続していれば同等に扱われる

出張の不正10類型で整理したとおり、水増しはさらに日数・経路・宿泊費に分かれます。カラ出張は、その手前にある「出張自体が無い」というカテゴリです。

グレーゾーンはどこか

現場で判断に迷うのは、次の3つです。

1つ目は、一部だけ架空であるもの。出張には行ったが、申請した3件の訪問先のうち1件は行っていない。日程を1日延ばして私用に充てた。全体としては実在する出張なので、本人は「カラ出張ではない」と考えがちです。しかし会社が支出した分に対応する業務が無いという構造は同じで、税務上も労務上も同様に扱われます。

2つ目は、出張はしたが目的が私用だったもの。実家の近くに形式的な訪問先を作る、といった形です。移動も宿泊も実在するため証憑はそろいますが、業務との関連性が無ければ経費性が否定されます。

3つ目は、中止したのに精算したもの。出張の予定は本物で、直前に取り消した。しかし申請は取り下げず、日当や宿泊費だけが振り込まれる。悪意なく起きることもありますが、返還しなければ結果は同じです。

判断に迷ったときの基準は1つです。その支出に対応する業務の事実があるかどうか。無ければ、程度の差はあっても同じ扱いになります。

なぜ発覚しにくいのか

3つの理由が重なっています。

第一に、出張の事実を確かめる情報が、申請した本人しか持っていないこと。行ったかどうかを知っているのは本人で、証憑も本人が提出します。承認者が見ているのは書類であって、事実ではありません。

第二に、一件の金額が小さいこと。日当と交通費で数万円という水準なので、単体では稟議の目に留まりません。問題になるのは累積したときですが、累積を見る仕組みが無ければ累積は見えません。

第三に、確認するコストが高いこと。訪問先に「先月お越しになりましたか」と問い合わせるのは、関係上まず選ばれない手段です。だから確認は書類の形式審査に留まります。

実際に発覚する経路

意図的な調査ではなく、別のきっかけで表に出ることが多くあります。

  • 税務調査 — 旅費交通費の増加や、特定の人物への支払いの偏りから入られます。調査官は訪問先や宿泊の実在を確認できる立場にあります。
  • 担当者の交代・異動 — 引き継いだ人が「この出張、記録が無い」と気づく。最も多い経路です。
  • 内部通報 — 同僚が知っている場合があります。行っていないことを本人が話していることも珍しくありません。
  • 取引先との突き合わせ — 訪問したことになっている先と別の話をしているときに、日付が合わないことが露見します。
  • 本人の申請内での矛盾 — 同じ日に別の場所へ出張している、経費の日付が移動と整合しない、といった形です。

いずれも、会社が能動的に検知した結果ではありません。放置すれば見つからない期間が続くということでもあります。

会社側に何が起きるか

ここが見落とされやすい部分です。カラ出張は、本人が得をして会社が損をするだけの話ではありません。会社が追加で税金を払う構図になります。

税務上の扱い

経費として計上した支出に業務の実体が無ければ、損金として否認されます。そのうえで、支出先である本人への経済的利益として、次のように扱われます。

誰の不正か支出の扱い会社側に生じるもの
役員役員給与(賞与)と認定損金不算入。源泉所得税の徴収漏れ、重加算税、延滞税
役員(恒常的に継続)役員報酬の一部と認定されうる定期同額給与の要件が崩れ、影響が当該額に留まらない
従業員給与と認定源泉所得税の徴収漏れ、重加算税、延滞税

仮装や隠蔽があったと判断されると、過少申告加算税ではなく重加算税が課されます。税率は過少申告の場合35%で、過去5年内に重加算税などを課されていた場合は45%に上がります。無申告に係る場合はさらに重くなります。

そして源泉所得税の納付義務は会社にあります。本人から回収できるかどうかとは別に、まず会社が納めることになります。

回収は自動的ではない

不正に支払った分を本人から取り戻すには、会社側が請求する必要があります。給与から差し引いて済ませることはできません。労働基準法は賃金の全額払いを求めているため、本人の自由な意思による同意が無いまま天引きすると、その控除自体が違法になりえます。

実務では、事実を認めた時点で返還の合意と支払方法を書面にしておく形が取られます。

本人に問える責任

3つの面があり、それぞれ別に成立します。

刑事

自分が管理している会社の金を着服した形であれば業務上横領罪(刑法253条)、虚偽の申請で会社を錯誤に陥らせて金銭を交付させた形であれば詐欺罪(刑法246条)に当たりえます。いずれも法定刑の上限は10年の拘禁刑です。

どちらになるかは、その人が会社の金銭を占有していたかどうかで分かれます。経理担当者が自ら出金していれば横領、申請して振り込ませていれば詐欺に寄ります。

民事

受け取った金銭は、不当利得または不法行為に基づく損害として返還を請求できます。調査にかかった費用まで回収できるかは事案によります。

懲戒

懲戒解雇と退職金の不支給が問題になります。カラ出張を繰り返した事案で、懲戒解雇を有効とし、退職金の不支給も認めた裁判例があります(三菱電機事件・神戸地裁尼崎支部 平成20年2月28日判決)。同判決では、会社側が不当利得の返還を求めた反訴も認められています。

ただし、これは証拠が揃っていた場合の結論です。回数、金額、本人の認否、過去の指導歴といった要素が積み上がって重い処分が支えられます。

立証が要る、という前提

どの面の責任も、会社が事実を示せることが出発点になります。

  • いつ、誰が、どの出張を申請したか
  • 誰がそれを承認したか
  • いくら、いつ支払われたか
  • 出張の事実を裏づける記録があるか(無いことを示せるか)

申請と承認と支払の対応が追えない状態では、疑わしくても動けません。紙とメールで運用していると、この4点がそれぞれ別の場所にあり、突き合わせに時間がかかります。時間がかかる調査は、途中で止まります。

記録が残る仕組みは、不正を止めるためというより、発覚したあとに会社が動けるようにするためのものです。

防止策は成立条件を潰す

「規程で禁止する」「注意喚起する」で止まらないのは、禁止が成立条件に触れていないからです。カラ出張が成立するには、次の4つが全部そろう必要があります。

成立条件外し方どの程度効くか
1. 行き先と日程が、本人の申告だけで決まる事前承認を必須にし、目的と訪問先を申請時に確定させる中。事後の作文を防ぐが、申告内容の真偽は判定できない
2. 移動と宿泊の実在が、本人が持ってくる証憑でしか確認できない手配を会社側に寄せ、法人一括請求にする大。予約と請求が会社に残るため、架空の行程を作れない
3. 訪問の事実が、誰にも確認されない訪問報告や商談記録を申請に紐付ける中。運用の負荷が上がりやすく、形骸化しやすい
4. 件数が多く、累積を見る人がいない申請と支払のデータを機械的に突合し、偏りを見る中〜大。検知は早くなるが、起きること自体は防げない

このうち、2つ目が最も外しやすく、外したときの効果が大きい条件です。本人が立て替えて領収書を持ってくる形をやめ、会社が手配して会社に請求が来る形にすると、行程の実在は会社側の記録で確認できます。

出張旅費の統制で扱ったとおり、手配を個人任せにしないという設計はコスト管理のためだけのものではありません。不正の成立条件を1つ消すという意味も持っています。

3つ目と4つ目は、運用でどこまで負荷をかけられるかの判断になります。全件に訪問報告を求めると回らなくなるので、金額や行き先で線を引くのが現実的です。

なお、規程が不要という話ではありません。何が逸脱なのかが規程で定義されていなければ、処分の根拠が作れません。出張規程の作り方で必須項目を整理しています。

よくある質問(FAQ)

1泊だけ日程を延ばして私用に使ったのは、カラ出張ですか?

呼び方はどちらでも構いませんが、扱いは同じです。会社が負担した1泊分に対応する業務が無いので、経費性が否定され、本人への給与として扱われます。金額が小さいことは性質を変えません。

少額なら見逃してもよいのでは、という意見にどう答えればよいですか?

金額の問題ではなく、扱いが一貫しているかどうかの問題だと整理してください。一度見逃すと、次に同種の事案で重い処分をしたときに、処分の妥当性が争われる余地が生まれます。基準を先に決めて、その基準どおりに運用するほうが、結果として揉めません。

経費精算システムを入れれば防げますか?

精算の効率は上がりますが、カラ出張の成立条件には触れません。精算システムが受け取るのは本人が入力した内容と本人が出した証憑なので、行っていない出張を入力することは妨げられないからです。効くのは手配側を会社に寄せることです。

本人が認めない場合はどうすればよいですか?

処分を急ぐ前に、記録の側を固めてください。申請と承認と支払の対応、訪問先の記録の不在、同日の別行動の証跡。これらが揃うまでは、聞き取りを重ねても平行線になります。証拠が不十分な段階での懲戒解雇は、無効と判断されるリスクがあります。

過去の分はどこまで遡って調べるべきですか?

まず範囲を決めずに全件を見ようとしないことです。本人の申請を時系列で並べ、金額と行き先の偏りが出ている期間を特定してから、その期間を精査するほうが早く終わります。税務上の影響を見積もる必要があるので、決算期をまたぐ場合は税理士と並行して進めてください。

役員のカラ出張は、従業員の場合と何が違いますか?

会社側の税負担が変わります。従業員なら給与として損金にはなりますが、役員の場合は役員給与(賞与)と認定され、その分は損金に算入できません。恒常的に続いていた場合は役員報酬の一部と見られ、定期同額給与の前提が崩れる可能性があります。

1Approvalでの実現方法

1Approvalは、いま使っている承認ワークフロー(kintone、Microsoft 365、Teams、Google Workspace)の上で、承認が降りた時点で手配まで完了させる仕組みです。

カラ出張に対しては、成立条件の2つ目を外すという形で効きます。

  • 手配が会社側で完結する — 本人が立て替えて領収書を持ってくる工程が無くなるため、行程の実在は会社の予約記録と請求で確認できる
  • 費用が法人一括請求にまとまる — 誰のどの出張にいくら出たかが、本人の申告とは別の経路で記録に残る
  • 申請と承認と実行が1本の記録になる — いつ誰が申請し、誰が承認し、いくらで実行されたかが同じ場所に残るため、調査時の突き合わせが要らない
  • 申請の入口が1つになる — 個人手配の抜け道が減り、累積を見るためのデータがそろう

不正の動機を消すものではありません。ただし、行っていない出張の行程と費用を本人が作り出す余地は無くなります。

まとめ

カラ出張は、出張の事実そのものが無いものです。日程や経路を膨らませる水増しとは、問われる法律も税務上の扱いも変わります。

発覚したときに痛むのは本人だけではありません。損金は否認され、源泉所得税は会社が納め、仮装隠蔽と判断されれば重加算税が乗ります。役員の場合は役員給与と認定されるため、その分が損金にならないという負担が加わります。

本人には刑事・民事・懲戒の3面を問えますが、いずれも会社側の立証が前提です。申請と承認と支払の対応が追えない状態では、疑わしくても動けません。

そして防止策の本体は、注意喚起ではありません。カラ出張が成立するには4つの条件が全部そろう必要があるので、1つ外せば成立しません。最も外しやすいのは、移動と宿泊の実在を本人の持ち込む証憑でしか確認できないという条件です。

まずは直近1年の出張申請を人ごとに並べて、件数と行き先の偏りを見てください。不正を疑うためではなく、そもそも累積が見える状態になっているかを確かめるためです。見えていないなら、そこが最初の課題です。

主な参照先

※本記事は一般的な整理です。個別の事案の税務上の取扱いや処分の妥当性は、税理士・弁護士にご確認ください。

監修

伏見 匡矩

伏見 匡矩

株式会社エイチ 代表取締役社長

  • 国内旅行業務取扱管理者

株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。国内旅行業務取扱管理者。出張手配の実務とBTM各社の比較検証を踏まえ、承認・予約・精算をつなぐ設計を扱っている。

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