建設業の購買管理|工事原価とつなぐ設計
建設業の購買は、買ったものが必ず特定の工事に属するという点で一般の間接材購買と違います。承認の基準が実行予算になること、請求書が届くまで外注費が見えないこと、現場ごとに入力ルールが違うことの3つが重なって原価とずれます。現場と本社のハイブリッド運用をどう設計するか、工事コードをどの時点で確定させるかを整理します。
建設業の購買を、一般の間接材購買と同じ設計で組むとうまくいきません。買ったものが必ず特定の工事に属するという点が根本的に違うからです。
オフィスの文具なら、誰が買っても「消耗品費」で処理して終わります。しかし現場で買った資材は、どの工事の原価になるかが決まっていて、それが実行予算に対する消化として記録されなければなりません。
本記事では、何が違うのかを整理したうえで、現場と本社のハイブリッド運用をどう設計するかを扱います。
この記事の要点
- 建設業の購買が一般の間接材購買と違うのは、買ったものが必ず工事に紐づく点です。紐づけが後回しになると原価が見えません。
- 承認の基準も違います。一般の稟議は「この支出は妥当か」ですが、建設業は「実行予算に収まるか」です。判断材料が金額そのものではなく残予算になります。
- 詰まるのは3か所。工事コードの確定が遅れる/請求書が届くまで外注費が見えない/現場ごとに入力ルールが違う。
- 現場と本社のハイブリッド運用は、金額と品目の2軸で線を引くのが基本形です。どちらか一方だけでは抜けます。
- 最も効くのは、工事コードを申請の必須項目にして、承認の時点で確定させることです。あとから紐づける運用は必ず崩れます。
- 2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されたため、事務作業を増やす方向の統制は現場で実行されません。記録が自動で残る形にする必要があります。
一般の間接材購買と何が違うのか
3点あります。
1. 買ったものが必ず工事に属する
一般の間接材は費目で処理できます。建設業の資材は、どの工事の原価になるかが決まっています。
工事原価は材料費・労務費・外注費・経費の4つで構成され、工事ごとに個別に集計されます。一般会計とは異なる勘定科目を扱うため、購買の記録がそのまま原価の記録になる必要があります。
ここで「あとで工事台帳に転記する」という運用にすると、転記が溜まります。実務でよく聞くのは工事台帳の更新が月末に集中するという状態で、原因は購買の時点で紐づけが終わっていないことです。
2. 承認の基準が実行予算になる
一般の購買稟議で承認者が見るのは「この支出は妥当か」です。建設業では「実行予算に収まるか」が基準になります。
同じ10万円の資材でも、実行予算に対して余裕がある工事と、既に超過しそうな工事では判断が変わります。つまり承認者は、申請の金額だけでなくその工事の残予算を見る必要があります。
残予算が見えない状態で承認していると、承認自体は回っているのに工事が赤字になる、ということが起きます。承認プロセスが機能しているかどうかは、承認の速さではなく判断材料が揃っているかで決まります。
3. 請求書が届くまで外注費が見えない
材料費は発注時点で金額が決まりますが、外注費は違います。請求書が届くまで確定しないため、その間の原価が見えません。
外注費と労務費の切り分けが難しいことも、建設業の原価管理が難しいと言われる理由の1つです。常用で入ってもらった分をどちらで処理するかは、契約の形によって変わります。
発注の時点で概算でも記録が残っていれば着地が見えますが、口頭や電話で発注している部分があると、そこだけ空白になります。
詰まるのは工事コードの確定
3つの違いのうち、設計で最も効くのは1つ目です。工事コードをいつ確定させるかで運用が変わります。
| いつ紐づけるか | 何が起きるか |
|---|---|
| 申請の時点(必須項目) | 承認と同時に原価が確定する。転記が発生しない |
| 発注の後 | 誰かが後から紐づける。溜まる |
| 請求書が届いてから | 経理が請求書を見て判断する。工事が分からないものが残る |
申請の時点で必須にするのが唯一まともに回る形です。 後ろにずらすほど、判断できる情報が減っていきます。請求書だけを見て「これはどの工事か」が分かるのは、その現場を知っている人だけです。
抵抗が出るとすれば「急いでいるときに工事コードを調べるのが面倒」という点です。ここは選択式にして検索できるようにする、よく使う工事を上位に出す、といった作りで吸収します。入力させないのではなく、入力を軽くする方向で解いてください。
現場と本社のハイブリッド運用
すべてを本社の集中購買にすると現場が止まり、すべてを現場判断にすると統制が効きません。実務で目指されるのは、主要資材は本社で集中購買し、細かい資材は現場判断で調達するという中間の形です。
線の引き方は金額と品目の2軸になります。
| 現場判断で発注 | 本社の承認が必要 | |
|---|---|---|
| 金額 | 一定額未満 | 一定額以上 |
| 品目 | 消耗品、小工具、仮設材 | 主要資材、外注、リース |
片方だけでは抜けます。金額だけで線を引くと、少額でも単価交渉が効く主要資材が現場でバラバラに買われます。品目だけで線を引くと、消耗品の大量購入が素通りします。
2軸のどちらかに当たったら承認、という形にしてください。
この設計は建設業に限りません。品目と金額の2軸で承認を分けるという考え方は消耗品購買の内部統制|リスクと承認フロー設計でも扱っていますが、建設業ではここに工事コードの軸が加わります。
現場が勝手に買う理由は「急ぎ」
線を引いても、現場が自分で買ってしまうことは起きます。理由はほぼ1つで、承認を待っていると工期に間に合わないからです。
これは統制の問題ではなくリードタイムの問題です。承認から発注までが2日かかるなら、現場は2日待てないときに自分で買います。この構造は現場の勝手購買はなぜ止まらないのかで整理しています。
ルールを強めるより、承認が降りた瞬間に発注が終わる状態を作るほうが確実です。
二重発注と資材の所在
現場ごとに調達していると、同じものを別々の工事で二重に発注していたり、返却されたはずの資材がどこにあるか分からなくなったりします。
これは記録の問題です。発注の記録が現場ごとのExcelやメールに散っていると、全社として誰が何をどれだけ発注したかを把握できません。
先に手をつけるべきは在庫管理ではなく発注の記録を1か所に集めることです。発注が見えていない状態で在庫だけ管理しようとしても、入ってくる量が分からないので合いません。
2024年問題が効かせる制約
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。原則は月45時間・年360時間で、特別条項でも年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満という条件があります。
これが購買の設計に効きます。事務作業を増やす方向の統制は、現場で実行されません。
「発注のたびに台帳に記入してください」「月末に工事別の集計を出してください」という運用は、規制の前でも守られにくく、規制の後はさらに難しくなります。現場監督の残業時間を削りながら記録を増やすことはできません。
したがって設計の方向は1つです。入力を増やさずに記録が残る形にする。申請の時点で工事コードを取り、承認がそのまま発注になり、発注の記録がそのまま原価になる。人が転記する工程を消す以外に、両立させる方法がありません。
設計の順序
手をつける順番があります。
- 発注の記録を1か所に集める — 誰が何をどれだけ発注したかが見える状態を作る。ここが無いと他が測れません
- 工事コードを申請の必須項目にする — 承認の時点で原価が確定する形にする
- 金額と品目の2軸で承認の線を引く — 現場判断の範囲を明文化する
- 承認から発注までのリードタイムを縮める — 待てないから買う、という動機を消す
- 実行予算の残高を承認者に見せる — 判断材料を揃える
1番から始めてください。いきなり5番を作ろうとすると、集める記録が無いので数字が出ません。
よくある質問(FAQ)
工事原価管理システムを入れれば解決しますか?
原価の集計は楽になりますが、購買の側が変わらなければ入力元は同じです。原価管理システムが受け取るのは、誰かが入力した発注データです。発注の時点で工事コードが付いていなければ、システムを入れても紐づけ作業は残ります。
現場に工事コードを入力させるのは現実的ですか?
選択式にして、よく使う工事を上位に出す作りにすれば回ります。自由記述にすると表記ゆれが出るので、必ずマスタから選ばせてください。現場が嫌がるのは入力そのものではなく、探す手間です。
少額の資材まで承認を取るべきですか?
承認は不要でも、記録は必要です。少額でも工事原価には入るので、「承認なしで発注してよいが、記録は残る」という形が現実的です。承認を取ることと記録を残すことを分けて設計してください。
外注費はどう扱えばよいですか?
発注の時点で概算でも記録を残してください。請求書が届くまで確定しないのは変わりませんが、発注済みで未請求の金額が見えていれば着地が読めます。口頭発注が残っていると、ここが空白になります。
実行予算の残高を承認者に見せるには何が要りますか?
実行予算のデータと、発注済みの金額が同じ場所にあることです。実行予算が表計算ソフト、発注が別システムという状態では突合が手作業になります。まず発注の記録を集めるところから始めてください。
2024年問題への対応として、何から着手すべきですか?
現場監督の作業のうち、記録のための転記を洗い出してください。日報、発注、台帳、精算——同じ情報を複数回入力している箇所が必ずあります。統制を足す前に、重複入力を消すほうが先です。
1Approvalでの実現方法
1Approvalは、いま使っている承認ワークフロー(kintone、Microsoft 365、Teams、Google Workspace)の上で、承認が降りた時点で発注まで完了させる仕組みです。
建設業の購買に対しては、設計の順序で挙げた1・2・4に効きます。
- 発注の記録が1か所に集まる — 誰がいつ何を申請し、いくらで実行されたかが同じ場所に残ります
- 申請項目に工事コードを持たせられる — 承認の時点で原価が確定し、後からの紐づけが発生しません
- 承認と発注の間が消える — 承認後に誰かが購買サイトを開いて注文し直す工程がなくなり、待てないから自分で買うという動機が減ります
- 費用が法人一括請求にまとまる — 現場の立替と領収書の回収が発生しません
実行予算の管理そのものを担うものではありません。原価管理システムや工事台帳は別に必要です。ただし、そこへ渡すデータが発注の時点で揃っている状態は作れます。
まとめ
建設業の購買が一般の間接材購買と違うのは、買ったものが必ず工事に紐づく点です。承認の基準も「妥当か」ではなく「実行予算に収まるか」になります。
詰まるのは3か所。工事コードの確定が遅れること、請求書が届くまで外注費が見えないこと、現場ごとに入力ルールが違うことです。
このうち設計で最も効くのは、工事コードを申請の必須項目にして、承認の時点で確定させることです。後ろにずらすほど判断できる情報が減り、請求書だけを見て工事を特定できるのはその現場を知っている人だけになります。
現場と本社のハイブリッド運用は、金額と品目の2軸で線を引いてください。片方だけでは抜けます。そして現場が自分で買う理由はほぼ「急ぎ」なので、ルールを強めるよりリードタイムを縮めるほうが確実です。
2024年4月からの時間外労働の上限規制により、事務作業を増やす方向の統制は実行されません。入力を増やさずに記録が残る形にする以外に、統制と働き方改革を両立させる方法がありません。
まずは発注の記録が何か所に散っているかを数えてください。現場ごとのExcel、メール、電話——ここが把握できていないと、他の施策の効果を測れません。
主な参照先
- 建設現場におけるサプライチェーン|国土交通省
- 国土交通白書 令和6年度 直面する課題|国土交通省
- 建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月から|国土交通省
- 建設業の工事原価管理とは?|freee
- 工事原価とは?4つの構成要素と管理方法|ZAC(オロ)
- 建設業者の6割以上が感じる物品調達の課題感|スマートオフィス
※本記事は建設業の購買業務に共通する構造を、公開情報をもとに整理したものです。特定企業の導入事例ではありません。自社の会計処理や原価計算の方法は、顧問税理士にご確認ください。
監修
伏見 匡矩
株式会社エイチ 代表取締役社長
株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。消耗品・工具の購買から会場手配まで、現場の調達を代行してきた経験をもとに、立替精算と勝手購買が生まれる構造を扱っている。
経歴・運営者情報を見るこの記事のテーマ
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