クラウド型ワークフローシステムの比較と選び方
ワークフローシステムをクラウド型とオンプレミス型のどちらにするかの分岐条件を整理し、クラウド型に決めたあとで確認すべき7点(課金単位、既存IDとの連携、社外承認者の扱い、電子帳簿保存法への対応範囲、承認ルートを誰が変えられるか、データの持ち出し、承認後の処理)をまとめます。オンプレミスから移行するときの注意点も扱います。
ワークフローシステムを探すと、まずクラウド型かオンプレミス型かの分岐に当たります。ただし現在この分岐で迷う会社は多くありません。大半はクラウド型が既定で、オンプレミスが残るのは条件が限られるからです。
問題はその先です。クラウド型と決めたあと、製品の機能一覧を並べても差が見えにくく、結局は価格と知名度で選ぶことになりがちです。本記事では、分岐の条件と、クラウド型に決めたあとで実際に差が出る7つの確認点を整理します。
この記事の要点
- クラウドとオンプレミスの分岐は、機能ではなく法改正やバージョンアップの対応を自社でやる体制があるかで決まります。
- オンプレミスが残る条件は3つ。社外へのデータ持ち出しが規程で禁じられている、独自カスタマイズが要件、IT部門が保守を担える。どれか1つでは足りません。
- クラウド型を選んだあとの確認点は7つ。中でも課金単位と承認ルートを誰が変えられるかが、導入後の総額と運用の継続性を決めます。
- 電子帳簿保存法への対応は「対応しています」の一言では判断できません。どの要件をどこまで満たすかを分けて確認してください。
- 出口(データのエクスポート)を最初に確認してください。承認の証跡は7年から10年残す前提の資産です。
- どのクラウド製品を選んでも、承認が降りたあとの発注・支払いは対象外です。
クラウドかオンプレミスか
分岐の条件から整理します。
| クラウド型 | オンプレミス型(パッケージ) | |
|---|---|---|
| 初期費用 | 0円が多い | 基本ライセンス+構築費 |
| 保守 | ベンダーが実施 | 自社で実施 |
| 法改正への対応 | ベンダーが更新 | 自社でバージョンアップを判断・実行 |
| カスタマイズ | 設定の範囲内 | 作り込みが可能 |
| データの所在 | ベンダーの環境 | 自社サーバ |
| 拠点・在宅対応 | 標準で可能 | VPNなどの手当てが要る |
判断の中心は法改正への対応をどちらが担うかです。ワークフローは電子帳簿保存法やインボイス制度の影響を受ける領域なので、制度が変わるたびに手当てが要ります。クラウドはこれがベンダー側の作業になり、オンプレミスは自社の作業になります。
オンプレミスが残る条件
次の3つがすべてそろうときに限られます。
- 社外へのデータ持ち出しが社内規程やセキュリティポリシーで禁じられている
- 標準の設定では表現できないカスタマイズが業務要件として存在する
- サーバとアプリケーションの保守を担えるIT部門がある
1つや2つでは足りません。とくに3つ目が抜けた状態でオンプレミスを選ぶと、バージョンアップが止まり、数年後にサポート切れのまま使い続ける状態になります。
なお近年は、社外へのデータ持ち出しの禁止という条件も、監査を受けたクラウドサービスであれば認めるという形に規程側が変わってきています。規程を最後に見直したのがいつかを確認してください。
クラウド型を選んだあとの7つの確認点
ここからが本題です。機能一覧では差が見えない部分に絞ります。
1. 課金単位
誰を数えるかが製品ごとに違います。全社員課金、申請者のみ課金、承認者のみ課金、定額。同じ月額単価でも、課金単位が違えば総額は数倍変わります。
先に「誰がどの画面を使うか」を決めてから見積もりを取ってください。金額の分解のしかたはワークフローシステムの費用相場|総額の出し方にまとめています。
2. 既存IDとの連携
ユーザーを手で登録し続けることになるかどうかが、ここで決まります。
- Microsoft Entra ID/Google Workspaceとの連携があるか
- SAML/OpenID ConnectによるSSOに対応しているか。それは標準機能か有償オプションか
- SCIMなどでユーザーの自動プロビジョニングができるか
- 退職者のアカウントが自動で無効になるか
入社・退職のたびに手作業が発生する構成は、数年で破綻します。とくに退職者のアカウントが残るのは監査で指摘される項目です。
3. 社外の承認者を含められるか
グループ会社の役員、顧問、委託先の担当者が承認に入る運用があるなら、ここを先に確認してください。
外部ユーザーを追加できるか、できるとしてライセンスを消費するか、メールだけで承認できる導線があるか。標準では社内ユーザー前提の製品が多く、あとから要件が出ると構成をやり直すことになります。
4. 電子帳簿保存法への対応範囲
「電子帳簿保存法に対応」という表記だけでは判断できません。要件を分けて聞いてください。
| 要件 | 確認する内容 |
|---|---|
| 真実性の確保 | タイムスタンプの付与か、訂正削除の履歴が残る仕組みか |
| 可視性の確保 | 取引年月日・金額・取引先での検索ができるか |
| 見読性 | 保存した書類を画面と書面で速やかに出せるか |
| 保存期間 | 何年分をシステム内に保持できるか |
このうち検索要件は、申請データではなく添付した証憑に対して求められます。申請フォームの項目で検索できても、添付ファイルが検索対象でなければ要件を満たしません。
5. 承認ルートを誰が変えられるか
運用が続くかどうかを決める最大の要素です。
承認ルートの変更が、管理画面の設定操作でできるのか、ベンダーへの依頼が要るのか、あるいはスクリプトの編集が要るのか。組織改編のたびに情シスやベンダーを経由する構成は、改編の頻度が上がると詰まります。
あわせて、承認者を個人アカウントではなく役職や部門コードで指定できるかを確認してください。個人で指定した時点で、異動のたびに全ルートを直すことになります。この設計論点は承認者マスタの設計|組織改編で壊れない承認ルートで詳しく扱っています。
6. データの持ち出し(出口)
承認の証跡は7年から10年残す前提の資産です。契約を終える日が来たときに、何が手元に残るかを最初に確認してください。
- 申請データをCSVやJSONで一括エクスポートできるか
- 添付ファイルも一緒に出せるか。ファイル名と申請の対応は保たれるか
- 解約後にデータを取り出せる猶予期間はどれくらいか
出口の確認は入口で行うものです。移行が必要になった時点では交渉の材料がありません。
7. 承認が降りたあとの処理
どのクラウド製品を選んでも、承認までが範囲です。承認後の発注、支払い、精算、会計への計上は対象外か、別製品との連携になります。
連携がある場合も、対象の会計システムと購買サイトが自社のものと一致するかを確認してください。「連携可能」と書かれていてもAPIの提供にとどまり、繋ぎ込みは自社の作業というケースがあります。
オンプレミスから移行するとき
既にオンプレミスのワークフローを使っていて、更改の時期にクラウドへ移す場合の注意点です。
過去データをどこまで移すかを先に決めてください。全件を移行しようとすると費用が跳ね上がります。現実的なのは、旧システムを参照専用で一定期間残し、新規の申請だけを新システムで始める形です。保存義務のある期間だけ旧環境を維持し、期間が過ぎたら停止します。
申請書をそのまま再現しようとしないことも重要です。オンプレミスで作り込んだ帳票をクラウドの設定範囲で再現しようとすると、できない部分がカスタマイズ要件として積み上がります。移行は申請書を見直す機会でもあるので、使われていない項目を落とす作業を先に入れてください。
よくある質問(FAQ)
クラウド型はセキュリティが不安だと言われます
論点を分けてください。不安の中身が「インターネット経由でアクセスできること」なら、IP制限・多要素認証・デバイス証明書で対処できます。「データが社外に置かれること」なら規程の問題なので、規程側の見直しが必要です。ベンダーの第三者認証の取得状況と、データセンターの所在地を確認したうえで判断してください。
既存のグループウェアにワークフロー機能があります。それで足りませんか?
申請の種類が少なく、承認ルートが固定的なら足ります。足りなくなるのは、金額による承認者の切り替え、部門ごとのルート分岐、監査向けの横断検索が必要になったときです。判断軸はワークフローシステム比較|3タイプの違いと選び方で整理しています。
何社くらい比較すればよいですか?
3社で十分です。それ以上並べても、確認点が同じなら差が見えるのは価格と操作感だけになります。それより、この記事の7点を同じ質問文で3社に投げて、回答をそろえて並べるほうが判断材料になります。
無料トライアルでは何を試すべきですか?
自社で最も複雑な申請書を1つ作ってみてください。最も単純なものはどの製品でも作れます。金額分岐や合議が入る申請書を1つ通してみると、設定画面の限界がすぐ見えます。
導入までどれくらいかかりますか?
申請書の種類によります。5種類程度なら1か月、30種類なら3〜6か月が目安です。かかるのはシステムの設定ではなく、既存の紙やExcelの申請書を1つずつ見直して整理する作業です。
1Approvalでの実現方法
1Approvalは、いま使っている承認ワークフロー(kintone、Microsoft 365、Teams、Google Workspace)の上で、承認が降りた時点で発注や手配まで完了させる仕組みです。
7つ目の確認点、つまり承認が降りたあとの処理を埋める位置にあります。
- 承認と発注の間が消える — 承認後に誰かが購買サイトを開いて注文し直す工程がなくなります
- 申請の入口が1つになる — 何をどこで買うかに関わらず同じ場所から申請するため、承認者が見る場所も1つで済みます
- 費用が法人一括請求にまとまる — 立替精算と証憑の回収が発生しません
- 既存の承認基盤をそのまま使う — 承認ワークフローを置き換えないため、全社員分のライセンスを二重に持つ必要がありません
ワークフロー製品を比較している段階であれば、承認の先まで含めて範囲を描いておくと、あとから別製品を足す形になりにくくなります。
まとめ
クラウドとオンプレミスの分岐は、機能ではなく体制で決まります。法改正やバージョンアップの対応を自社でやる体制があるかどうかです。オンプレミスが残るのは、データ持ち出しの禁止・独自カスタマイズ・保守できるIT部門の3つがすべてそろうときに限られます。
クラウド型に決めたあとは、7点を同じ質問文で各社に確認してください。課金単位、既存IDとの連携、社外承認者の扱い、電子帳簿保存法への対応範囲、承認ルートを誰が変えられるか、データの持ち出し、そして承認後の処理です。
このうち導入後に効いてくるのは、課金単位と、承認ルートを誰が変えられるかの2つです。前者は総額を決め、後者は運用が続くかを決めます。
そして出口の確認は入口で行ってください。承認の証跡は7年から10年残す資産で、移行が必要になった時点では交渉の材料がありません。
まずは自社で最も複雑な申請書を1つ選んでください。それを各社のトライアルで作ってみるのが、機能一覧を読むより早く差が分かる方法です。
主な参照先
- クラウド型ワークフローシステムの主な機能や導入のメリット|マネーフォワード クラウド
- オンプレミス(パッケージ)型のワークフローシステム9選 クラウドとの違いは?|BOXIL
- オンプレミスとクラウドの違いとは?|ワークフロー総研(エイトレッド)
- 電子帳簿保存法対応のワークフローシステム9選|アスピック
- 電子帳簿保存法一問一答|国税庁
※制度への対応範囲は製品ごとに異なります。電子帳簿保存法の要件と自社の該当区分は、税理士または国税庁の資料でご確認ください。
監修
伏見 匡矩
株式会社エイチ 代表取締役社長
株式会社エイチ代表取締役社長。出張手配・会場手配の実務を起点に、申請・承認から購買実行までを一体で扱う1Approvalを立ち上げ、事業責任者としてプロダクト設計に携わる。承認されたあとの購買・手配をどう自動化するかという観点から、Microsoft 365を基盤とした申請・承認の設計を扱っている。
経歴・運営者情報を見るこの記事のテーマ
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